ドコモ光で二つのプロバイダ(OCN for ドコモ光、GMOとくとくBB)を比較してみる
本稿では、同じ光回線(ドコモ光)でもプロバイダが異なることで生じる使用感の違いを比較検証します。対象のプロバイダは「OCN for ドコモ光」と「GMOとくとくBB」の二つです。
2024-03-31
2022年12月に念願の光回線(GMOとくとくBB)を自宅に導入しました。実家では10年以上前から光回線(OCN for ドコモ光)で自宅でも同じように導入できるかと思っていましたが、けっこう違いがあり、苦労するまでは行かないものの調べ物や試行錯誤でそれなりに手間がかかりました。本稿は、その調べ物や試行錯誤をまとめたものです。
以下、各プロバイダについて紹介し、次に公開サーバを運用する場合のプロバイダ間の差異を検証します。その後、この両プロバイダ間の通信について触れ、まとめとなります。
本稿内の通信速度については、Fedora Core KDE 37のspeedtest-cliで計測したもの、実測値は主にFedora Coreのアップデート時における速度を参考としています。
OCN for ドコモ光は実家(山形)の光回線で2020年9月に導入されました。光回線自体は10年以上前にNTTフレッツ光が導入され、その後、光コラボに変更され、さらにドコモ光へと変更されました。ドコモ光への変更は実家の母がケイタイからスマホへ変更する際、ドコモショップの店員に言いくるめられることにより実現しました。
この光回線のHGW(ひかり電話ルーター)は、PR-S300HIというIPoE対応機としては最初期の製品です。そのためIPoEではポートフォワーディング(静的IPマスカレード)の機能が利用できません(400番台以降は利用可能)。もっとも、このIPoEでのポートフォワーディング機能(IPv4)は利用できるポートが限定されるため公開サーバの運用等には利用できず、そう使い勝手の良い機能ではないのでIPoE導入時懸案となった機種の更新・交換は棚上げしています。
速度は最大で、下り700Mbps強、上り100Mbps、平均値としては下り300~400Mbps上り90Mbps程度です。下りの速度はその時その時に変化しますが、上りは90Mbps強で安定しています。おそらく、上りは100Mbpsで速度制限がかかっており、その分を下りに割り振るなどの調整が行われていると推測されます。
OCN for ドコモ光のIPoE対応(IPv4 over IPv6)は、HGW(PR-S300HI)で行われており、そのためのソフトウェアが自動でインストールされています。その状況は、http://192.168.1.1:8888/t/で確認することができます(192.168.1.1はデフォルト値)。
このIPoE対応は場合によっては使えなくなるサービスがあるため解除することが可能で、OCN for ドコモ光ではOCNへ連絡、要請すれば30分ほどで旧来のPPPoE接続に戻せるそうですが、プロバイダによってはこのソフトウェアで直接変更が可能な場合もあるそうです。
この回線ではWebサーバを公開運用しており、IPv4はIPoEセッションの他に追加したPPPoEセッションを利用して運用されています。PR-S300HIは光回線とWebサーバをブリッジ接続し、Webサーバ(malva.karing.jp)がPPPoEセッションを確立し(グローバルIPアドレスを取得し)、インターネットに接続しています。詳細は、
pr-s300hi.htmlを参照して下さい。
なお、この回線では半日で120GB程度のダウンロードを実行したことがありましたが、速度制限などは受けませんでした。
20年以上利用したYahoo! BBが2023年1月をもってサービス終了ということになり、2022年12月にGMOとくとくBB(ドコモ光)を自宅(東京)に導入することになりました。ドコモ光の選択理由はケイタイその他の社会的な理由ですが、GMOとくとくBBの選択理由は、最初に問い合わせの電話をした際、GMOとくとくBBと他の一社の二つから「今、どちらかに決めて下さい」と言われ、知名度のあるGMOを選択せざるをえなかったからです。とくにこの選択で問題があったというわけではありませんが、プロバイダの選択にはそれなりの下調べや事前準備はしたかったです。
この回線でのHGW(ひかり電話ルーター)はRX-600MXで現時点で最新と思われますが、PR-S300HIとの性能差等はとくに感じられません。ポートフォワーディング機能はあるものの非特権ポートしか使えないなど制限が多いし、PR-S300HIにはないUSBポートも別途契約の必要な機器のためのものだそうで単純には10年分の技術的進歩を感じられないのが少し残念です。さらに、後述するようにRX-600MX単体ではインターネット接続が完結しないのも面倒です。
速度は上下で最大700Mbps強、平均では上下200~300Mbpsくらいです。数値的には実家のOCNに劣るように見えますが、使用感はほぼ同等です。また、OCNに比較し、GMOとくとくBBの方が速度にばらつきがあり、とくに上りの速度は下りの何倍もあったりすることがあり、上りの帯域を制限調整していると推測されるOCNとは明らかにその挙動が異なります。
GMOとくとくBBでのIPoE対応は、IPoE対応(IPv4 over IPv6)をHGW(ひかり電話ルーター)で行うOCNとは異なり、別途IPoE対応ルータ(NEC Aterm WG2600HS2)を設置して行われています。なので、LAN内の端末は、まず、このIPoE対応ルータに接続され、その後、RX-600MIを介し光ケーブルでインターネットに接続されます。ちなみに、このIPoE対応ルータなしに直接端末をRX-600MIに接続したらどうなるかというとIPv6では普通にインターネットに繋がります。当然、IPv4では繋がりません。つまり、IPoE対応ルータは基本的にはIPv4 over IPv6の変換だけを行っていることがわかります。
上述のように当LANはIPoEによりインターネットに接続されており、そうすると簡単には外部からIPv4では接続できないことになりますが、しかし、実際、このWebページは配信、公開されています。前項のOCN for ドコモ光では、公開サーバとするためHGWをブリッジ接続にし、Webサーバが自らPPPoE接続を確立することで直接グローバルIPアドレスを取得してインターネットに接続していましたが、GMOとくとくBBではHGW(RX-600MI)がPPPoE接続を確立し、ルータとなり、言わば公開サーバ用のLANを構成するという方法でインターネットへのルートを確保しています。つまり、このページを配信しているwww.karing.jpもこの公開用のLANに属し、デフォルトゲートウェイはHGW(RX-600MI)となっています(非公開のLANのデフォルトゲートウェイはIPoE対応ルータのNEC Aterm WG2600HS2)。前項のPR-S300HIはIPoE対応のソフトウェアがインストールされているためポートフォワーディングの機能が無効化されていましたが、このHGW(RX-600MI)にはそのようなソフトウェアはインストールされておらず、既存の機能がすべて有効になっており、ルータ(RX-600MI)のWAN側ポート80(www)はLAN内のこの486機のポート80に転送され、公開サーバとして運用されています。
RX-600MIの配信済事業者ソフトウェア一覧には何もない
なお、RX-600MIもブリッジ接続の設定は可能なのでGMOとくとくBBでも前項(PR-S300HI)と同様な解決策は可能ですが、PPPoE接続にはそれなりのリソースが必要で486機には重荷になるためこの選択肢は取りませんでした。
また、80GBのディスクイメージをアップロードしてみましたが、これもとくに速度制限などを受けることはありませんでした。ちょうど一時間(約20MB/s)ほどかかりました。
現在、光回線はIPoE接続が主流になりつつあります。しかし、IPoEはIPv6前提の技術であり、今なお多数派であるIPv4に対応するにはなんらかの変換工程が必要で、この変換工程のためIPv4はIPoE環境下では様々な制限を受けることになります。外部からの接続が制限されることがその一つの制限であり、当ドメインではPPPoEセッション(IPv4)を追加することでその制限を回避しています。都合、当ドメインはIPoEによるIPv6アドレス、IPoEによる外部から接続できないIPv4アドレス(IPv4 over IPv6)、PPPoEによるIPv4アドレスの3つのIPアドレスを利用してインターネットに接続していることになります。
OCN for ドコモ光では、HGW(ひかり電話ルーター)であるPR-S300HIではファームウェアの更新によりPPPoE接続ができなくなっているため、Webサーバ(malva.karing.jp)がPR-S300HIのブリッジ接続を介してプロバイダ側とPPPoEセッションを確立(グローバルIPアドレスを取得)しています。また、GMOとくとくBBではHGW(ひかり電話ルーター)であるRX-600MIがPPPoEセッションを確立し、WAN側のポート80をWebサーバ(www.karing.jp)のポート80に転送することで公開運用を実現しています。
両プロバイダではPPPoEではIPv6に対応しないとのことですが、PPP接続が確立したネットワークインターフェィスでもIPoEで自動取得したIPv6アドレスは有効でそのIPv6アドレスで普通に通信できるようです。ただし、それを活用する意味・意義がどの程度あるのかは微妙なので特に活用するには至っていません。
ここまで二つのプロバイダをそれぞれ概観してきましたが、本項では両者で通信し合ったときのことについて検証します。速度の計測は3GBのファイルをscpで転送しました。以下がその結果です。
from OCN for ドコモ光 to GMOとくとくBB
| average | Max |
IPv6 | 1.0MB/s | 1.2MB |
from [IPv4 over IPv6] to [IPv4 over IPv6] | 10.8MB/s | 12MB/s |
from [IPv4 over IPv6] to [IPv4 on PPP] | 8.3MB/s | 11MB/s |
from [IPv4 on PPP] to [IPv4 over IPv6] | 10.8MB/s | 12MB/s |
from [IPv4 on PPP] to [IPv4 on PPP] | 7.1MB/s | 10MB/s |
from GMOとくとくBB to OCN for ドコモ光
| average | Max |
IPv6 | 1.0MB/s | 1.2MB/s |
from [IPv4 over IPv6] to [IPv4 over IPv6] | 接続不可 | |
from [IPv4 over IPv6] to [IPv4 on PPP] | 21.3MB/s | 28MB/s |
from [IPv4 on PPP] to [IPv4 over IPv6] | 接続不可 | |
from [IPv4 on PPP] to [IPv4 on PPP] | 14.6MB/s | 18MB/s |
上記の結果を見るにIPv6での相互接続が明らかに遅いのが目立ちます。回線速度はその時の環境、状態に大きく左右されるものですが、この遅さはそういう外的な要因ではなく、プロバイダ側の意図的な制限に見えます。ただ、そうする合理的な理由がわからないので不思議としか言いようがないところです。pingの反応などはIPv6の方が自然に速いのでなおさら転送速度の遅さが気になります。
当LANは、2022年までの20年来、486機をルータ兼メインサーバとしてきました。そんな低スペック機での運用が可能だったのは主回線が4MbpsほどのADSL回線であり、486機のスループットでもボトルネックにならなかったからです。しかし、そのADSLもサービス終了ということで光回線への移行となりました。そして、光回線の速度には486機ではついていけないので長らく当LANを統括したメインサーバもルータの任は卒業ということになりました。このルータの変更は当LANの抜本的な再編成を意味し、この一年ほどは設定と調整に明け暮れました。サーバ機のOSをVineからGentooへ移行したことも重なり、とても大変な一年でしたが、2023年度もなんとかこうして締めくくれるようでホッとしています。
ADSLは過渡的な技術と言われながら20年以上の社会的寿命でした。光回線は登場は早かったものの普及の速度はとても遅く、どうなることかと思われた時期もありましたが、十分に普及した現状から振り返るとそんな時期があったことが嘘のようです。しかし、当時のADSLの爆発的普及は「革命」と呼びたくなるような衝撃があり、いくら品質が良くてもそういった感動みたいなものが光回線にはないのがつまらないと言えばつまらないです。
なんにせよ、光回線も今の価格の半値ぐらいになればもっと自由に試行錯誤できるのですが、現状はそうなっておらず、今後もそうなる未来は予測し難い状況です。そういうわけで、光回線は一度導入したらなかなか変えづらく、導入時の選択が非常に重要となります。無数にあるプロバイダの中から二つだけを比較検証した本稿がどれほどの参考になるかはわかりませんが、ほんの少しでも何かのお役に立てれば幸いです。